人間は通常体温が36~37.5℃に保たれており、外界の温度が上昇した場合には、主として、発汗と皮膚の毛細血管の拡張によって体温の調節が行われます。
しかし、発汗は湿度が75%を超えると効果が薄くなり、皮膚の毛細血管の拡張は外界の温度が体温を超えるとほとんど効果がなくなります。
体温が上昇すると酸素消費量と代謝率が上昇し、頻呼吸と頻脈を引き起こし、体温が42℃を超えると酸化的リン酸化が行われず、体内の多くの酵素が機能しなくなります。特に肝細胞、血管内皮細胞、神経組織そしてほぼ全ての臓器がこの影響を受け、結果として多臓器不全を引き起こし、死に至ることがあります。熱中症は高温多湿環境下では誰にでも起こり得、甘くみてはいけません。
熱中症の重症度分類と症状、病態、治療のまとめ
1度(軽症) | 2度(中等症) | 3度(重症) | |
症状 |
・めまい、立ちくらみ ・筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り) ・大量の発汗 |
・頭痛、気分の不快、吐き気 ・嘔吐、倦怠感、虚脱 |
・意識障害、けいれん ・手足の運動障害 ・高体温(40℃)以上 |
病態 | ・発汗に伴う水分と塩分(ナトリウム)の喪失 | ・蒸散と伝導を目的に循環血液が表層血管に分布し、主要臓器への血流が相対的に欠乏する |
・循環血液量の減少 ・高温による酸素消費 ・代謝増加 ・神経系 ・臓器の障害 |
治癒 |
・例所に移動 ・スポーツドリンク(0.2%の食塩水)摂取 |
・細胞外液(生理食塩水)の輸液 |
・呼吸、循環の安定(蘇生のABC) ・速やかな冷却 |
熱中症の予防対策
■暑さを避ける
・日陰に入る
・服装に注意(吸水性の優れた、白色系の素材を選ぶ)
■こまめに水分を補給する(アルコール飲料は適さない)
・体温の上昇による発汗によって体液(水分と塩分)が失われるため、脱水状態時には水分だけでなく
塩分を摂取することが大切
■急に気温が上がった日には注意する
■子供・高齢者は要注意(子どもは地面に近いので輻射熱の影響を受けやすい)
■暑い中、気分が悪くなったり、ふらふらしたら要注意
冷却方法(解熱剤は効果がない)
1) 放熱:室温を下げる
2) 伝導:冷水浴、クーリングマット、鼠径部・腋窩の冷却
3) 対流:扇風機による送風
4) 気化:体表への水滴噴霧とその蒸発(アルコールは使わない)
最近、高知県内、特に高知市や南国市で百日咳(ひゃくにちぜき)が流行しています。
百日咳はもともと小児の感染症と考えられていましたが、乳幼児期に接種したワクチンの効果の低下から成人の患者さんが増加しています。
本症は7~10日間の潜伏期の後、咳がしだいに強くなり、数週間から約2ヵ月間持続します。14日以上の咳があり、かつ、①発作性のせき込み、②吸気性笛声、③咳き込みの後の嘔吐、のうち1つ以上を伴う場合に本症を疑います。ただ成人では小児のような激しい発作性の咳ではない場合もあります。
本症は伝播力が強く家族感染や学校、職場での集団感染につながるため、正確な診断、早期の治療が重要です。
胃内にピロリ菌感染がある方の割合は年齢とともに増え、50歳以上の日本人の感染率は50%以上といわれています。
通常、細菌は強い酸性の環境である胃内では生存できませんが、ピロリ菌は自ら生成したアンモニアにより胃酸から身を守っています。胃粘膜はピロリ菌の出すアンモニアや毒素により障害され慢性胃炎が起こり、萎縮胃・十二指腸潰瘍を発症しやすくします。
ピロリ菌に感染している方がすべて胃・十二指腸潰瘍になるわけではありませんが、胃潰瘍の70~80%、十二指腸潰瘍の90~100%の患者さんにはピロリ菌感染がみとめられます。ピロリ菌感染が胃がんのリスクを高めることもわかってきています。
また、特発性血小板減少性紫斑病、小児の鉄欠乏性貧血など消化管以外の疾患との関連も指摘されています。
現在慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃におけるピロリ菌の除菌治療が行われています。
ピロリ菌除去治療
日本ヘリコバクター学会は2009年1月、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の診断と治療のガイドラインを公表し、ピロリ菌感染者すべてに抗菌剤による除菌治療を強く推奨する(推奨A)としました。
将来の胃がん発生率を抑制するための指針といえます。
胃の粘膜にいるピロリ菌を除菌すると、胃がんの再発が3分の1に減るとの報告が英医学誌「ランセット」に掲載されました。
内視鏡治療を受けた早期胃がん患者さんのうち、ピロリ菌感染が判明した505人に対し抗生物質でピロリ菌を除菌した群と、除菌しない群に分け、3年間経過を観察しました。除菌しない群では、250人中24人で内視鏡治療をした場所とは別の場所に胃がんの再発がみられ、除菌した群では255人中9人の再発でした。
また、ピロリ菌感染者の約3%が7~8年のうちに胃がんを発症したのに対し、非感染者では胃がん発症がなかった、などの研究報告もあります。
胃がんの発生には遺伝的な要因や食習慣、喫煙なども関わりますので、ピロリ菌を除菌したから安心というわけではありませんが、除菌により胃がんの発生リスクは確実に下がるということです。
ピロリ菌の感染がわかった方は、症状がなくても胃内視鏡検査を受けたほうがよいでしょう。
萎縮性胃炎がある場合は、胃がん予防を視野に入れピロリ菌の除菌治療を受けることをお勧めします。
エピペンはハチ刺傷、食物アレルギーなどアナフィラキシーに対する緊急補助治療に使用される医薬品です。アナフィラキシーを起こす可能性の高い人が自宅で常備することでアナフィラキシー発症の際に医療機関へ搬送されるまでの症状悪化防止に役立っています。
<効能・効果>
ハチ毒、食物、薬物等に起因するアナフィラキシー反応に対する補助治療(アナフィラキシーの既往のある人またはアナフィラキシーを発現する危険性の高い人に限る)。
<効能・効果に関連する使用上の注意>
アナフィラキシー反応初期症状(しびれ感、違和感、口唇の浮腫、気分不快、吐き気、嘔吐、腹痛、蕁麻疹、咳込みなど)は人により異なる。
エピペンは初期症状が発現し、ショック症状が発現する前の時点、 又過去にアナフィラキシーを起こしたアレルゲンを誤って摂取し、明らかな異常症状を感じた時点で使用する。
薬剤による筋肉の障害は一般にミオパシーと呼ばれているが、ミオパシーにはCK(CPK)が軽度に上昇する軽症のものから、血中のミオグロビンが著しく上昇し、腎不全を伴う重症のものまであり、重症例では病理組織学的に横紋筋線維の変性・壊死が認められるところから、横紋筋融解症として区別されている。
したがって、横紋筋融解症と診断するには、筋肉症状とCKの上昇だけでは不十分であり、血中あるいは尿中のミオグロビンの上昇、あるいは腎機能障害の存在を証明しなくてはならない。米国のACC/AHA/NHLBIは、横紋筋融解症の定義として、「筋症状に伴って基準値上限の10倍を超えるCKの上昇、血清クレアチニンの上昇が認められるもの」とすることを提唱している。しかし筆者は、腎機能が悪化する前に薬剤を中止すべきであると考えているので、血中ミオグロビンの上昇を認めた段階で横紋筋融解症と診断することを提唱している。
横紋筋融解症の際にみられる腎不全はミオグロビンによる尿細管の閉塞が原因と考えられており、血中ミオグロビンが200ng/mlを超えると腎機能障害が出現すると言われているので、筋症状とともにミオグロビンの上昇が認められた場合はただちに薬剤を中止し、筋症状なしにミオグロビンの上昇が認められた場合には正常上限の5倍(400ng/ml)を超えたところで薬剤を中止するのがよいと考えている。
横紋筋融解症の最初の症状は筋肉痛であり、次いで脱力である。筋肉の腫脹、硬直、しびれが認められることもあるが、大事なのは骨格筋の痛みと力が入らない感じである。ここで気をつけなければならないのは、筋肉痛を認める部位である。患者の中には、右腕が痛かったからとか、腰が痛かったからといって薬を中止してしまう人がいるが、このように身体の一部の痛みの場合は、薬剤によるものではなく、外因性のことが多い。全身の筋肉に痛みを認めるとか、筋肉痛とともに脱力を訴える場合に横紋筋融解症を疑う。そして、確認のために血清中のCKとミオグロビンの測定を行う。その結果、ミオグロビンの上昇がなく、CKの上昇だけの場合は、ミオパシーと診断すべき状態であるが、大事をとってCKが正常上限の5倍(1000 IU/L)を超えたところで薬剤を中止する。ミオグロビンの上昇を認めた場合は、横紋筋融解症を考えて、ただちに薬剤を中止する。また、尿が赤褐色を呈する場合もミオグロビン尿の可能性が高いので薬剤を中止する。早い段階で発見した場合は薬剤を中止するだけで回復するが、腎機能障害を認める場合は、その程度に応じた治療が必要である。
腎障害が軽度の場合、すなわち血中ミオグロビンが200ng/ml を超えるか血清クレアチニンの上昇を認める場合は、まず輸液を行って尿量の増加に努める。その際、重曹水を加えて尿をアルカリ性にするとよい。尿細管の閉塞は酸性尿下で強まることが知られているからである。
腎不全が中等度以上の場合、あるいは腎不全は軽度でも高カリウム血症、高リン血症、高尿酸血症が認められる場合は、重炭酸透析液を用いた血液透析を行う。ミオグロビン血症が高度な場合には、血漿交換療法が有効である。
東京・中谷内科クリニック 院長 中谷 矩章